STORY 04
フラットに考えたからこそ、出した答え
渋谷55ストリートビジョン
OUTLINE
半蔵門線渋谷駅のコンコース約55mにわたって並ぶ12本の「柱巻広告」をデジタルサイネージ化。多くの人が行き交う空間で集中的に広告放映が出来る媒体として更にスケールアップ。連続性のある映像表現や微細な映像表現が可能となり、「デジタルサイネージアワード2023」優秀賞を受賞した。
もともと、この渋谷駅のコンコースには、全長約30mの大型ポスターと約55mにわたって並ぶ12本の「柱巻広告」があった。
1日約170万人(※1)が利用する半蔵門線渋谷駅の地下2階コンコースへの広告出稿が可能な媒体として、多くの広告主様に評価いただいていたが、競合との差別化と通行する方の視聴体験を最大化するため「柱巻広告」をデジタルサイネージ化。このプロジェクトを手がけた戦略企画部・佐々木に話を聞いた。
※1 2021年度各鉄道会社公表データより作成
佐々木
戦略企画部
2015年 新卒入社
大型・横長ポスター、柱巻広告、どちらをデジタルサイネージ化するか
社内でもどちらにするか、かなり意見が割れました。特に当時の業界の流れや競合の事例をみると、当社も横長の大型ポスターをデジタルサイネージにしようという期待が高まっていました。ただ、本当に横長でいいのか、流行に飛びつかずにしっかり検討したほうが良いのではと個人的に思っていました。
現場に行って実際に歩いてみると、横長のサイネージは見栄えが良いものの、通行時に横を向きながら歩くことになるので、ずっとは見ていられないことに気づきました。他のプロジェクトメンバーとも現地をはじめ様々な媒体を見て回り、設置環境ごとの良さや強みを研究しました。
最終的に、渋谷駅コンコースが湾曲しているため連続する柱がきれいに見えること、かつ壁面の横長とちがって歩行時に顔を向けなくても常に視界に入りつづけることが強みになると感じました。周辺の競合媒体に無い特徴で差別化出来る事や通行者の視聴体験を最大化できると考え、柱巻広告のデジタルサイネージ化に踏み切りました。実際にどう感じるか体感することで違和感を言語化出来た事が、どちらを選択するかにあたって一番大きな要因になったのかなと思います。
広告体験の最大化と、歩行者に対しての配慮のバランスに苦労した
正直ここが一番大変だった…という記憶があります。今回設置した渋谷駅コンコースは、ハチ公方面と宮益坂方面を結ぶ地下通路で、昼夜を問わず多くの人が行き交っています。流す広告がたくさんの方の目に留まり、撮影や拡散のアクションを通じて更なる反響を頂きたいと思いながらも、通行する方の利便性と快適さを損なわないよう最大限配慮しながら開発検討を進めていくことに苦労しました。
柱巻広告をデジタルサイネージにした際の通路幅がどのように変化するか、LEDビジョン設置後のまわりの温度上昇の懸念、歩行者に対してLED照明のまぶしさへの配慮など、多くの問題について一つ一つ調査や試験を進め、最終的に検討開始から完成するまでに、計2年の期間が経過していました。
これらの課題解決は、ひとえに、一つ一つ細かな検討にご協力いただいたプロジェクトチームの皆さんと、最適化に向けて真摯に議論いただいた東京メトロの助けがあってのことだと思っています。
プロジェクト開始から媒体販売まで、長期間におけるチームの努力をかたちにできた
前述したとおり、湾曲したコンコースで連続する柱がきれいに見通せ、かつ歩行時に、常に視界に入り続けることから、本ビジョンの開発にあたって特に際立たせた特長が3つあります。
- 国内OOHでは初導入となる1.26mmピッチの「超高精細LED」により、微細で鮮明な映像表現が可能。
- 移動動線上に正対して連続設置されているため、1面ごとに放映内容を切り替えるなどの「連続性」のある広告表現が可能。
- 縦型大画面を使って俳優・アイドル・キャラクターなどの「等身大を活かした表現」が可能。
特に、1.26mmピッチの「超高精細LED」については、現物を見た際に従来のピッチ数のLEDとの差に特に驚いたことを覚えています。また、1.26mmピッチのLED導入は、国内OOH媒体では初導入というニュースバリューの面も考慮しました。もちろん、その分費用面は大変でしたが、投資がかかっても回収できるポテンシャルのある駅と場所だと思っていたので、導入を決めました。
この3つの特長を実際に体験していただくために、特別映像の制作、放映を行いました。この特別映像では、ストリートアートで装飾された柱の空間内で、12人の人形が手前から奥に時間差で連動・伝播していくダンスを展開。多様な文化を生み出してきた渋谷らしい「ストリートカルチャー」を通して、媒体の特長を多くの歩行者の方に体感していただきました。
また、媒体開発から特別放映までをご評価いただき、2023年6月14日に開催されたデジタルサイネージアワード2023において、優秀賞を受賞しました。当社としても、媒体開発において初の受賞であったため、検討から販売開始までの長期間における関係者一同の努力を形に残せたことがとてもうれしく思いました。
自らの経験・体験を基に、「その駅・その場所・その人たち」に合った媒体開発を心がけていきたい
私自身、広告代理店営業やメディア部門、東京メトロでの出向をはじめとして異なる部署で得た経験や体験が、このプロジェクトに大きく活きたと思っています。当時の自分の経験を基に、媒体開発の様々なシチュエーションに応じて目線を変えて俯瞰的に考えることができました。
また、東京メトロには、表参道駅や銀座駅をはじめとする他社にはない駅やエリア特性に特徴がある駅など、強みになりうる場所があります。今後は、自らの経験・体験を基に、「その駅・その場所・その人たち」に合った媒体開発に取り組み、新たな映像コンテンツ制作や先進的なテクノロジーの導入も検討していきたいと考えています。
屋台骨がしっかりしてるからこそ、チャレンジしやすい文化や風土がある
このプロジェクトはキャリアの中でも一つの成功体験になったと佐々木は語っている。
投資のリスクはあったものの、会社の経営的にもインパクトは残すことができた。
東京メトロという母体がしっかりしている企業だからこそ、社内でもチャレンジしやすい文化や風土がありそのおかげで新しい媒体が誕生した。
今回の経験もふまえて、俯瞰的な目線を忘れずに更に良い媒体を作って意欲を示していた。